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購入の前に、ベンダーのVPATをどう読み、何を尋ねるか

VPATをもとにしたACRから買い手が読み取れること、5つの適合の用語の意味、当てにできない報告書の兆候、入札で尋ねること、購入後にリスクを減らす方法

要点:VPATはITIが公開している空の様式で、1つの製品について記入したものがそのベンダーのACR(Accessibility Conformance Report)です。ACRはベンダー自身の申告で、買い手が試験した結果ではありません。どの版を、誰が、どう、いつ試験したかと、各用語の根拠になる備考を読み、自分たちの主要なタスクで試したうえで、足りない点を契約に書き込みます。

01

使う場面

ある図書館が、会議室とイベントの予約システムを選んでいます。候補は2社です。A社からは「Accessibility Conformance Report, based on VPAT Version 2.4」と題した14ページの文書が届きました。対象は製品のバージョン6.0で、日付は2024年3月です。提案されているのはバージョン7.3です。B社からは、1枚の書面が届きました。「当社のプラットフォームはWCAG 2.1 AAに完全準拠しています」。

調達の担当者は、どちらが安全な選択か、契約で何を求めるべきかを決めなければなりません。どちらの文書も図書館が書いたものではなく、図書館の実際の業務で試したものでもありません。

02

VPATとACRの違い

VPAT(Voluntary Product Accessibility Template)は、米国の業界団体ITI(Information Technology Industry Council)が公開している様式です。ITIは、特定の製品について記入したVPATをACRと呼んでいます。つまりベンダーから届く文書はACRで、VPATはその元になった空の様式です。様式の説明には、報告内容の正しさを保つのはベンダーの責任だと書かれています。ACRはベンダー自身の申告です。

2026年11月2日時点の最新版は、2025年4月付のVPAT 2.5Revで、4つの版があります。新しい版が出ていないかは、ITIのVPATのページで確認してください。

版 対象
WCAG WCAG 2.0、2.1、2.2
Revised 508 WCAG 2.0と、改訂版Section 508基準(2017年公布、2018年訂正)
EU WCAG 2.0、2.1と、EN 301 549 V3.1.1、V3.2.1
INT 上のすべて

2.5RevのEU版が対象とするのはEN 301 549 V3.1.1とV3.2.1です。ETSIは2026年9月にV4.1.1を発行しましたが、2.5Revのどの版にも載っていないため、これらの様式で作ったACRはV4.1.1に照らした報告にはなりません。

様式は、ACRに必ず含める項目を定めています。製品名とバージョン、報告日(少なくとも年と月)、連絡先、評価の方法(Evaluation Methods Used)、対象の規格、使った用語の定義、そして基準ごとのConformance Level欄とRemarks and Explanations欄の回答などです。これらがない文書は、名前が何であれ、様式のいうACRではありません。ACRと適合表明の違いは、ページがWCAGに適合するための条件で説明しています。

03

5つの適合の用語

ACRの各行には、次のどれかの用語が入ります。英語のままの用語に、ITIの定義を訳して添えます。

用語 ITIの定義(訳)
Supports 製品の機能に、既知の欠陥なく基準を満たす方法、または同等の手段で満たす方法が少なくとも1つある。
Partially Supports 製品の機能の一部が基準を満たしていない。
Does Not Support 製品の機能の大部分が基準を満たしていない。
Not Applicable 基準が製品に関係しない。
Not Evaluated 製品をその基準で評価していない。WCAGのレベルAAAの基準にだけ使える。

行の読み方を変える決まりが、様式に3つあります。

  • Partially SupportsとDoes Not Supportの行では、問題のある機能と、どう満たしていないかを備考に書くことになっています。備考が空のPartially Supportsからは、対策を立てる材料が得られません。
  • WCAGの表では、製品に該当する内容がない基準にもSupportsと書いてよいことになっています。WCAG自身の適合の考え方に沿ったものです。動画のない製品のキャプションの行がSupportsでも、正しい書き方で、警戒すべき兆候ではありません。
  • ITIと違う定義を使う場合、ベンダーはNotes欄にそう書くことになっています。表より先に、用語の欄を読んでください。

04

読むときは、誰が、どう、いつ、どの版を

表より先に冒頭の項目を読みます。表の内容に意味があるかどうかは、ここで決まります。

  • どの製品のどの版か: ACRが表すのは1つの版です。提案されている版のほうが新しければ、表は購入しないソフトウェアのことを書いています。
  • いつか: 報告日と、改訂があればNotes欄の説明。
  • どう試験したか: 評価の方法の欄に、試験した人が製品の使い方を知っていたか、どの支援技術を使ったか、どの手動・自動のツールを使ったか、公開された方法か社内の方法かが書かれているはずです。
  • 誰が試験したか: 様式は試験した人の名前を求めていません。第三者が試験したなら、ここに書かれているはずです。何も書かれていなければ、ベンダー自身が試験したものと考えます。

当てにできない報告書の兆候は、見ればわかります。

  • すべての行がSupportsで、備考がひとつもない。
  • 評価の方法が自動スキャンだけ。スキャンでは確認できない基準が多いことは、自動テストではカバーできないことで説明しています。
  • 製品のバージョンや報告日が、購入するものよりかなり古い。
  • 様式の版が最新より古い、または必須の項目がない。「準拠しています」と書いた1枚の書面はACRではありません。
  • ACRは本体のアプリケーションだけを扱っていて、製品に組み込まれたサポートチャットや同意バナーなど、他社の部品に触れていない。

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入札で尋ねること、自分で試すこと

様式によれば、ACRの目的は買い手の「予備的な評価(preliminary assessments)」を助けることです。次の質問で、予備的な評価を、根拠を示せる評価に変えます。

  • 提供されるバージョンについて、最新の様式で、評価の方法を記入したACRを送ってください。
  • 試験したのは社内のチームですか、第三者ですか。どの支援技術を使いましたか。
  • Partially SupportsやDoes Not Supportの行について、問題は何か、回避方法はあるか、いつ直すかを教えてください。
  • ACRは、製品に組み込まれた他社の部品も対象にしていますか。
  • 利用者はアクセシビリティの問題をどこに報告でき、修正にはどのくらいかかりますか。
  • 貴社のアクセシビリティの取り組みについて、自己評価を記入していただけますか。米国の州CIOの団体NASCIOのPDAA(Policy-Driven Adoption for Accessibility)には、そのためのベンダー向け自己評価があります。方針を持つことから、方針と進捗の情報を顧客に公開することまで、6つの中核基準に沿って答える形式です。

そのうえで、試用環境で自分たちの主要なタスクを試します。会議室を予約する、予約を取り消す、イベントを探す、といった操作です。キーボードだけ、スクリーンリーダー、200%の拡大表示で操作し、結果を該当する行と見比べます。試すのは実際に導入するものすべてで、組み込まれた部品も含みます。メッセージを読み上げないチャットウィジェットや、フォーカスを隠し、最後にしか届かないCookieバナーも、利用者が出会う製品の一部です。製品そのものがサイトに入れるアクセシビリティのツール(オーバーレイや監視ダッシュボードなど)なら、EaseWebの導入済みアクセシビリティ対策の検証で、ベンダーの説明と検証結果を並べることができます。

06

選んだあとにリスクを減らす

すべての基準を満たす製品は多くありません。たいていは、要件を最もよく満たす製品を、足りない点を書き出したうえで選ぶことになります。次の対策は、どれもW3C Accessibility Maturity Modelの調達の側面に挙がっている項目か、PDAAの中核基準です。

  • 既知の問題の改善計画: 未解決の行ごとに修正の期日を付けます。PDAAも、アクセシブルでないICTについて、期日を含む計画をベンダーに求めています。
  • 契約の条項: W3Cのモデルは、ベンダーによる試験の証拠、アクセシビリティを含む保証と救済の条項、導入前後のベンダーの是正措置と改善計画を挙げています。
  • 代替手段の計画: 問題が直るまで利用者が使う代替手段を決めて、公開します。職員がメールや電話で予約を受け付けるなどです。書き方は掲載されていない、または中身のないアクセシビリティ方針を参照してください。
  • 監視: 利用者からのアクセシビリティの苦情をベンダーに伝える手順を決め、大きな版が出るたびにACRと照らして試験し直します。
  • 更新: W3Cのモデルは、Integrateの段階の条件に、契約更新の交渉にアクセシビリティの基準を含めることを挙げています。未解決の行を価格に反映できるのは、更新のときです。

成熟度モデルが評価するのは、製品ではなく組織です。W3Cのモデルは、Communications(広報)からSupport(サポート)までの7つの側面を、Inactive、Launch、Integrate、Optimizeの4段階で評価します。この段階の名前はPDAAに合わせたものだと、モデル自身が書いています。PDAAの成熟度モデルは、6つの中核基準をLaunch、Integrate、Optimizeの3段階で評価します。自分たちの調達の手順はW3Cのモデルの調達の側面で点検し、ベンダーの取り組みは、ACRに加えてPDAAの自己評価で比べるとよいでしょう。

07

実例

図書館は2社の文書を冒頭の項目に沿って読み、A社の試用環境で3つのタスクを試しました。会議室の予約、予約の取り消し、イベントの検索です。

行または項目 ACRの記載 図書館が確認したこと、尋ねたこと
製品と日付 バージョン6.0、2024年3月、VPAT 2.4 7.3について2.5RevのACRを求め、A社は8週間以内の提出に同意
評価の方法 「自動テストツール」 手動とスクリーンリーダーで誰が試験したかを尋ねたところ、まだ誰も試験していなかった
2.1.1 キーボード Supports、備考なし 会議室のカレンダーをキーボードで開けず、キーボード利用者は予約できない
1.4.10 リフロー Partially Supports:「週表示のカレンダーは320 CSSピクセルで横スクロールが必要」 記載どおり。日表示は使えるため、回避方法がある
4.1.3 ステータスメッセージ Supports 「予約が確定しました」が画面に出ても、NVDAで読み上げられない
1.4.6 コントラスト(高度) Not Evaluated 1.4.6はレベルAAAの基準なので、この用語を使ってよい

B社の書面には、バージョンも日付も評価の方法も、基準ごとの行もありません。図書館はACRを求めましたが、期限までに届きませんでした。

結果として、図書館はA社を選び、既知の問題3件を契約に書き込みました。カレンダーのキーボード操作と確定メッセージには6か月以内の修正期日を設け、遅れた場合の救済を定めます。それまでは、図書館のアクセシビリティのページで、メールや電話でも予約できることを案内します。手動とスクリーンリーダーで試験した7.3のACRを受け入れの条件とし、契約の更新前にもう一度試験します。

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よくある間違い

  • ACRを証明とみなす。 ACRはベンダーの申告で、評価の方法に書かれていない限り、誰も確認していません。上のように、主要なタスクを自分で試してください。
  • Supportsの数を数える。 Supportsが50行あっても、利用者に必要なタスクでのDoes Not Supportが1行あれば、そちらが重くなります。主要なタスクに関わる行から読んでください。
  • ACRのない「準拠」を受け入れる。 1枚の書面には、版も日付も方法も備考もありません。報告書を求めてください。
  • 版を確かめない。 古い版のACRは、導入するものについてほとんど何も語りません。契約する版のACRを求めてください。
  • 足りない点を書かずに契約する。 契約時にわかっていた問題も、契約に書いていなければ、後から持ち出すのは難しくなります。修正の期日、救済、代替手段を書き込んでください。
  • 組み込まれた部品を忘れる。 チャット、同意バナー、決済ページは、別の会社の製品かもしれません。メッセージを読み上げないチャットウィジェットやフォーカスを隠し、最後にしか届かないCookieバナーにある方法で試してください。

09

規格の定め

  • Section 508 E202.7(米国連邦政府機関への要件): 改訂版Section 508基準の要件を満たすICTが市場にない場合、機関は業務上の必要に沿って、基準を最もよく満たす(best meets)ICTを調達するよう定めています。E202.7.1は市場調査と選定の根拠を文書にすることを、E202.7.2は障害のある人が情報とデータを利用できるよう、必要に応じた代替手段(alternative means)を提供することを求めています。
  • EN 301 549 V4.1.1(参考の部分): 序文は、ICTの調達に使う場合、箇条5から13のすべての技術要件と、箇条4の機能的性能基準を考慮すべきだとしています。附属書E.4.2は、選ぶ前に考えることとして、満たしていない要件のうちサービスデスクなどの代替で補えるものはどれか、その代替にどれだけ費用がかかるか、次の版で直せるかを挙げています。EN 301 549そのものの要件は、EN 301 549では、WCAGのほかにWebサイトに何が求められるかで扱います。
  • VPAT 2.5Rev(規格ではなく様式): 上の5つの用語と必須の項目を定めています。必須の要件から外れた報告書は、VPATの名前を使えません。
  • W3C Accessibility Maturity Model(W3Cグループノート、助言): 調達の側面の項目として、アクセシビリティを含む保証と救済の条項(3.6.2.4)や、利用者からのアクセシビリティの苦情をベンダーとの間で把握し対処する手順(3.6.2.5)を挙げています。
  • NASCIO PDAA(2015年、助言): 中核基準、成熟度モデル、ベンダー向け自己評価ツールの3つで構成されています。NASCIOは、自己評価の回答が、アクセシブルな製品を作るベンダーの力を評価し、ベンダーのVPATをどこまで信頼できるかを測る助けになるとしています。
  • 日本: 総務省は、米国のVPATを参考にした「情報アクセシビリティ自己評価様式」を公開しています。企業が自社のICT機器やサービスについて自己評価した結果を公表し、企業や公的機関、障害のある人が選ぶときの参考にするための様式です(令和7年版情報通信白書)。公的機関がWebサイトの構築を外部に発注する場合については、「みんなの公共サイト運用ガイドライン(2024年版)」の6.4が、仕様書の作成に先立ってJIS X 8341-3:2016に基づく目標を決めること、事業者に求める対応を仕様書で明確にすること、事業者が過去に構築したサイトのアクセシビリティを確認すること、JIS X 8341-3:2016に基づく試験結果を確認したうえで検収することを求めています。ACRと同じく、最後に確かめるのは発注者です。

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制限

この記事はベンダーの報告書の読み方を扱うもので、製品を試験するものではありません。3つのタスクの試用は診断ではありません。製品が法令の要件を「最もよく満たす」かどうか、契約で何を求められるかは、買い手の弁護士と調達の規則が決めることです。様式も規格も改訂されます。VPATの最新版はITIのページで、契約が指すEN 301 549の版はETSIで確認してください。達成基準そのものが何を求めるかは、ページがWCAGに適合するための条件で扱います。

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用語

ACR
Accessibility Conformance Report。VPATの様式を1つの製品と版について記入し、各基準をどこまで満たすかを示した報告書。
Partially Supports
製品の機能の一部がその基準を満たしていないことを表す、VPATの用語。
代替手段
製品がアクセシブルにできていない情報や機能を、障害のある人に別の方法で提供すること。職員がメールで予約を受け付けるなど。
成熟度モデル
1つの製品ではなく、組織が方針、業務の手順、契約にアクセシビリティをどこまで組み込んでいるかを段階で評価する枠組み。

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出典とガイド

関連するガイド

この記事は実務の進め方を、再現した例で説明するものです。法的な助言ではなく、特定の顧客についての指摘でもありません。